第10話 それぞれの告白

第 9 話はこちら

 
那美なみちゃん、まだ何か言いたいことがあるんじゃないかね。この際だから全部吐き出してしまいなさい」

久恵ひさえはそう言ったが、那美は迷っていた。愛実めぐみは那美のかわりに、百合子ゆりこに向かって言った。

「おばさんは、那美のために我慢してることがあるんじゃないですか?」
百合子は思い当たることがあるのか、戸惑いの表情を見せた。

それを見た那美はついに口を開いた。
「お母さん、結婚したい人がいるんじゃないの」

みんな驚いて百合子に注目した。すると百合子の代わりに那美が話し始めた。

「お母さんが初めて知らない男の人をうちに連れてきたとき、ショックだった・・・。私のことなんて気にかけてないんだなって思った。私がどんなに寂しかったか、どんなに夜が怖かったか全然わかってない、わかろうともしてないと思った」

那美の言葉がやいばのように百合子の胸に突き刺さった。

「でも私、お母さんにそのことをぶつける勇気もなかった。お母さんがあの男の人の話をするたびに腹が立って、だんだん口をきかなくなったわ。自分でもどうしたらいいのかわからなくなっていったの」

那美は怒りや悲しみが一気にふきだして、涙があふれた。
愛実は那美の肩をしっかりと抱いていた。

百合子は消え入るような声で言った。
「那美、ごめんなさい。あの頃のお母さんは那美の気持ちも考えず、浮かれていたのかもしれないわ。それに那美にもお父さんができたほうがいいと思っていたの。経済的にも楽になるし・・・。それで、まずは那美に紹介したいと思って家に呼んだのよ」

百合子は那美を見た。
那美はうつむいたままで、百合子と目を合わそうとしない。

「でも那美のことそんなに傷つけていたなんて・・・。ほんとうにバカな母親だけど、これだけは信じて。お母さんは那美がいちばん大事なの。あの人のことは好きだけど、那美がいやなら結婚するつもりはないわ」

那美はふと顔を上げて言った。
「やめて。そんなことしてもらっても私は嬉しくないわ」

「那美!」
那美が怒りだすのではないかと心配して、愛実は思わず声をかけた。

しかし、那美から出てきたのは意外な言葉だった。

「バツイチで子持ちの女と結婚したいと思ってくれる男なんて、そういないわよ。こんなチャンス、もう二度とないかもよ。お母さんは男を見る目がなさそうだから、その人がほんとうにお母さんのこと大事にしてくれる人なのか、私が見極めてあげる」
そう言って那美は、やっと少し笑った。

「那美・・・ありがとう・・・。ありがとう・・・」
百合子は涙が止まらなくなった。みんな一斉にもらい泣きをしていた。

「那美ちゃん、あんたって子は・・・。ほら、シュークリームみんなのもあげるから! どんどんお食べ!」

那美は久恵がお皿に次々とシュークリームを積んでいくのを見て焦った。

「先生、そんなに食べたら私、太っちゃいますよ!」

「何言ってんだい、私を見てごらん! あんたはまだ太ったって大丈夫だよ!」
みんな久恵の言葉に泣きながら笑った。

ようやく和気あいあいとシュークリームを食べ始めた。部屋の中はホッとした空気が流れていた。

少しして、那美が突然切り出した。

「実は私、もうひとつ言いたいことがあるんです。いいですか?」

那美は愛実に顔を向けると、黙ってその手を強く握った。
愛実には那美がこれから何を言おうとしているのかがわかった。

那美は立ち上がった。

「お母さん、私も謝らなければいけないことがあります・・・。実はこの数か月間、援助交際をしてました」

「援助交際って・・・」
百合子は娘が何を言っているのかわからなかった。

「知らない男の人とホテルに行って、お金もらってたの」
それは那美の突然の告白だった。

「もう私、ウソをつくのも隠すのもやめることにした。このまま黙っていても自分が苦しいだけだし・・・。ほんとうにごめんなさい!」

那美の目から涙がこぼれた。それは後悔の涙だった。

そのとき、愛実が立ち上がって言った。

「私も・・・。私もしてたんです、援助交際。お母さん、今まで黙っててごめんなさい!」

それを聞いた智実ともみは驚いて声が出なかった。
那美は智実に向かって言った。

「おばさん、愛実を援助交際に誘ったのは私なんです。悪いのは私です。愛実は私のこと止めようとしてくれてたのに・・・。ごめんね、愛実」

あまりに突然の告白に、百合子と智実は目を見開いたまま、何も言うことができずにいた。

久恵は泣いている那美と愛実を座らせ、温かい紅茶を入れ直した。

「まったく、あんたたちは驚かせてくれるじゃないか・・・。でもよく言ってくれたね。お母さんたちは寿命が縮まったかもしれないけど」

苦笑いしながらティーポットにお湯を足し、久恵は言った。

「まったく、今日はみんな泣きすぎて、体の中から水分がなくなっちまうよ。ほら、どんどん補給しなさい」

久恵はてきぱきと百合子と智実のカップにもあたらしい紅茶を注いだ。

そして落ち着いたところで、母親たちに向かって静かに話し始めた。
 

つづき 第 11 話 へ