第13話 神様の愛

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さっきまでの楽しげな口調とは打って変わって、久恵ひさえは落ち着いた声でゆっくりと話を始めた。

「みんなは神様っていうと、神社にいて願い事を聞いてくれる人みたいなイメージがあるだろう? でも、ホントはそうじゃないんだよ」
「えっ?」

「神様っていうのは、私たちをつくった大きな存在のことをいうんだよ。私たち人間もそうだけど、動物や植物や、海や大地、地球全体、いや、宇宙全体をつくられた存在のことだよ。わかるかい?」

「なんとなく」
愛実めぐみは小さくうなずいた。

「それで、神様は愛そのものだって、さっき言っただろう?その神様が、ご自分の中から私たちをつくられたんだよ」

「だから、私たちは神の子ってことなんですか?」
「そのとおりだよ。あんた、察しがいいねえ」
久恵が嬉しそうに笑った。

「それじゃあ、私も神様の愛を持っているっていうことですか?」
「もちろんだよ。あんたが、さっきのお産を見て感動したのも、あんたの中の愛と神様の愛が同じものだからなんだよ」

「そうですか…。あの時はなんだか自然と泣けてきちゃって」

「そうだろう? 私だって、数えきれないほどの命が誕生する奇跡の瞬間に立ち会ってきたけど、何度見ても感動するのさ。それで実感したんだよ。ここには神様の愛があるんだって」

愛実は久恵の話のひとつひとつに納得しながら耳を傾けていた。

「今日もどこかで、新しい命が生まれているのさ。目を閉じて想像してごらん」
久恵は愛実の目をみつめると両手を広げて、すっと目を閉じた。

愛実も真似をしてゆっくりと目を閉じた。

「老いて肉体を離れ天国へかえっていく魂もあるさ。
同時に地球のどこかで新しい命が次々生まれている。
人間だけじゃない。草も花も、虫も、動物も。この地球のいたるところで、今この瞬間も新たな命が生まれている。

地球だけじゃない。きっと宇宙の多くの星ぼしでも同じさ。そんなふうに神の愛は、宇宙の中に満ちていて宇宙の万物を創造しているのさ。

みーんな、神の愛を分け与えられた神の子。神の愛のもとで、ひとつにつながっているのさ」

愛実は瞳を閉じた暗闇の向こうに、きらきらと輝く宇宙を見ていた。

どの星にも、地球のようにさまざまな生き物がにぎやかに暮らしている。そんな星が宇宙にたくさんひしめいている。

銀河の輝きの一つひとつの星に数えきれないほどの生き物がいて、私もその中の一つの命なんだ。そしてその全てが神様の大きな愛につながっている―。

この宇宙は、命の神秘がぎっしりとつまった宝箱。私はその中の宝物のひとつ――。

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「考えてごらんよ。もし空気がなかったら、太陽がなかったら。私たちはほんの一分だって、生きていられない。当たり前のように思っていることも、すべて神様が与えてくださっているんだよ。そう、この命もね」

「私の命も?」
久恵は、うんと大きくうなずいた。

「お嬢ちゃん。今日もほら、元気に身体が動くじゃないか。毎日息をして生きてるじゃないか。そしてそんなきれいな心を持ってるじゃないか。

ここに存在するのは当たり前じゃない。神様に愛されて、生かされて、みんなそうやってこの世に生まれてきたんだよ」

「そんなこと、考えたこともなかった…」
愛実には今までの生き方が自分勝手なものに思えてきた。

「そうだろうね。私なんてこういう仕事してるから、神様の愛の奇跡を目の当たりにするんだよね。だからこそ、神様を近くに感じるんだよ」

「うらやましいな、神様を感じるなんて」
私には無理かもしれない。愛実は心の中でそう付け加えた。

「この仕事しててね、人生観変わったよ。私は」
そう言うと、久恵は壁に貼られた写真を指差した。

「見てごらん。この赤ちゃんの小さな手、愛らしい寝顔。お母さんが『今日は手をつくろう、顔をつくろう』そう思って、この子をつくったかい? 違うだろう。神様がつくられたんだよ」

久恵は、固い表情を崩さない愛実の隣に座り直すと話を続けた。

「神様は、女性の身体の中に命を宿す神殿をつくられたんだ。子宮って、女の人にしかないだろう? 男の人はどんなに頑張っても子どもを産めないんだ。そう考えると、神様は女性たちに素晴らしい役割を与えてくれたと思うんだよ」

「あの…、子宮の話…。びっくりしました。そんなに大切なものだなんて知らなくて」
やっと聞き取れるほどの弱々しい声で愛実は自分の思いを言葉にした。

「そうだろうね。学校じゃこんなこと教えないしね。でも、今の若い子たちにはぜひ知っておいてもらいたいんだよ。

神様からいただいて、親が命がけで産んでくれた身体を粗末にする子が多いからねえ」
久恵は静かに話を終えると、愛実に向かってニコリと笑ってみせた。

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